ヒカルは携帯電話を取り出した。
「あの。小僧谷温泉を･･･。」
急に声を発したヒカルのほうをユミとリサはふり返った。
「はい。はい。どーも。もしもし。小僧谷温泉さんですか？」
ヒカルは電話を続けた。
ヒカルは今到着して、バスがなかったことをかいつまんで話した。
「はい。はい。よろしくです。」
「で、なんだって･･･。」
電話が終わるのを待ちわびていたようにユミがたずねた。
「うん。心配ないから･･･。すぐ迎えに来るって･･･。」
ヒカルはリサの肩をたたいた。
「良かった。」
がくぜんとした表情をしていたリサも笑顔を取り戻した。
「でも、どうしてわかったの。小僧谷温泉の電話番号･･･。」
ユミが尋ねた。
「え。NTTの番号案内ってサービスを使ってみただけ･･･。」
「あ。ぜんぜん気がつかなかった･･･。」
ユミはすまなさそうな表情をした。
「ごめん。二人とも･･･。」
ユミが頭を下げた。リサとヒカルはあわててしまった。
「そんな。ユミちゃんのせいじゃないよ。」
「そうだって。私がちゃんと前もって準備してなかったからで･･･。」
ヒカルがすまなさそうに前髪をかき上げた。
「でも、わたしあわてて。ヒカルに言われるまで番号案内なんて全然、気がつかなかった。」
ユミが本当にすまなさそうな顔をしていた。
「ユミ。人間は普段おかれてない状況に陥ると、パニックになっちゃって普段の冷静さを失っちゃう。だから、普段簡単に気づくことでも見逃してしまうの。だから、ユミに責任なんてないよ。」
ヒカルはにっこり笑った。
今まで、人一人いなかった三人の世界に一台の自動車が飛び込んできた。こっちにどんどん近づいてきた。
「きたみたい。」
ヒカルが振り向いた。
車は猛スピードで三人の下に飛び込んできた。
バンのドアが開いて運転席から声が飛んだ。
「お待たせ。さぁ、寒かったでしょ。早く乗ってください。」