【短】『鏡』


カップを口に運ぶ手が、止まった。

「科学者たちの掟を破ってまで、なぜ・・・」

カップを手元の受け皿に置いて、翼の方は見ずに言った。

「君は・・・僕の記憶を持っているんだったね」

翼は、黙って頷いた。

それに間髪を入れずに、続けた。

「なら、分かるだろう?」

「・・・『夢』・・・ですか?」

今度は、僕が頷く番だった。

「・・・では・・・では、その『夢』を叶え、あなたは一体何を手に入れたのですか?」


―――――驚いた。

翼は、現存する『アンドロイド』の中で一番旧型のはず。

なのに、ここまで・・・自分の意思を持つほどまでに成長するとは・・・。


「・・・本当に、僕の父さんと母さんは、天才だったようだね。君のメイン・コンピュータが、この短期間でここまで進化するとは、正直、意外だったよ」

その事実に、苦笑せざるを得なかった。

「答えて下さい、博士」