あ……、この声は。

名前を呼ばれて意識が浮上すると、焦点が合わずぼやける視界に映る人の姿。


「……りぃ、くん」


寝起きの掠れた声で名前を呼ぶと、りぃ君が苛立った表情で私の方へと手を伸ばす。

それをジッと視線だけで追うと、その節高な長い指が私の目尻に触れた。


「なに泣いてんだよ……」


あ、涙で視界がぼやけてたのか。

涙を拭う手つきは声や表情とは正反対で、とても優しくて慎重だ。


りぃ君の手が私の肌から離れていく瞬間……香水の匂いと煙草の匂いが強く香る。



それにどうしようもなく心が掻きむしられるように騒めき、居ても立っても居られなくなった。



「りぃ君……っ」

離れた手に、自分の手を伸ばす。

嫌だ、離れていかないで。私を置いていかないでっ。