しかし、十年ぶりか。

懐かしいと言えば懐かしいし、そうでないと言えばそうでない。

なにせ俺にしてみれば、はるか遠い昔のことだ。

あの頃の記憶なんてほとんどない。

ただうっすら覚えてるのはおじさんの顔と店の外観。
それから……。

それからなんだっけ?

今、何かを思い出しそうになった。

が、それは雲がかかったようにもやもやして掴めない。

何か大切なことだった気がするのだが。

「まもなく、白崎〜、白崎〜」

あ、ここだ。

車内に響くアナウンスに、急いで立ち上がる。

思い出しそうな何かは、霧のようにすーっと消えていった。

まぁ、忘れてるくらいだからたいした事ではないのだろう。

そう言い聞かし、降車の準備を進める。


少しの期待と、大きな不安をかかえながら。