「タカは本気でもねぇ女にまで相鍵渡すようなヤツじゃねぇからさ。
口には出さねぇけど、リサちゃんのこと考えて、色々と悩んでるみてぇだし。」


「………」


「つーか、アイツは基本的に女々しいんだよな。
あの部屋だってさっさと引っ越せば良いのに、まだ昔のこと引きずってやがる。」


それはつまり、あの食器を買い揃えた人のことだろうか。


饒舌に言う道明さんは、あたしの顔色なんか気にすることもない。



「忘れねぇと前に進めねぇことだってあるってのになぁ。」


タカの心には、何が引っ掛かっているのだろう。


聞きたかったけど、でも聞いたって良いことなんかないだろうと、言葉を飲み込んだ。



「道明さん、時間良いの?」


話しを終わらせるように言うと、時計を見た彼は、あっ、という顔をした。



「悪いな、リサちゃん。
送ってやりてぇとこだが、さすがに制服の子はマズイから。」


「何それ。」


「ポリに職質されたら面倒なんでな。
ヤクザだってバレたら、高校生連れてるって理由だけでパクられるから。」


「ホントに?」


「あぁ、あいつらは俺らなんかよりよっぽどタチが悪ぃんだ。」


そう言って肩をすくめ、道明さんは車まで戻っていった。


今時、映画に出てくるようなヤクザらしいヤツは上には行けない、とか何とか、前に言ってた言葉を思い出した。



「リサちゃん、もしも何かヤバいことに巻き込まれたら、俺の名前出せば良いから。」


じゃあ、タカによろしくな。


そんな言葉と共に、ポーンと抜けるようなホーンの音を響かせ、道明さんは車を走らせる。


それを見送りながら、彼はその辺の男よりずっと良い人なんじゃないかと思った。


まぁ、ヤクザを信用する気はないけど。