春樹の開口一番はそれだった。


視線だけでテーブルに投げていた封筒をさすと、彼はそれを手にし、口元を上げる。



「きっちり折半してんだろ?」


「当たり前じゃない。」


春樹はそれでもまだ疑うように、封筒の中身を確認する。



「お母さん、夏に帰って来るんだって。」


「じゃあ飛行機が墜落すること願わねぇとな。」


鼻で笑って吐き捨てる彼とあたしは、互いに目を合わせることはない。


と、いうか、本当は同じ空気を吸っていることだけでも吐き気がするけれど。



「親父は?」


「そんなのあたしが知るわけないじゃない。」


春樹の咥えたセブンスターの煙が部屋を侵食していく。



「まぁ、どうせアイツはこっちには帰ってこねぇだろうけど。」


アンタも帰ってこなくて良いよ。


なんて、心の中で思いながら、札を数える春樹を見た。



「他に問題は?」


「ねぇよ。」


「じゃあまた来月、ってことで。」


月に一度の義務的な顔合わせはすぐに終わり、彼は現金を手にさっさと部屋を出る。


アイツはこれで当分家に帰ってくることはないだろうからと、やっと息をついてあたしは、自室の扉に手を掛けた。