嫌だと取った手はほどけ、向けられた背中。


力さえ入らなくなり、上手く立ち上がれずにいると、



「シロのこと、頼んだぞ。」


「…やっ…」


「じゃあな、リサ。」


それはいつも通りの言葉だった。


去っていく後ろ姿に必死で手を伸ばしながら、何度その名を呼んだだろう。



「嫌だよ、タカ!」


けれど届くはずもない。



「…タカ、お願いだからっ…」


嗚咽が止まらなくて、呼吸さえも出来なくなる。


それでももつれる足で彼を追おうとしたが、もうその姿はどこにもなかった。


次第に朝もやに染まり始めた世界の中で、遠くで鳴り響くサイレンの音と、そして発砲音。


あたしはタカの無事を祈りながら、その場に膝から崩れ落ちた。








ねぇ、タカ。

あの日の約束をまだ覚えてる?