例えば今が何時なのか、もっと言えば朝なのか夜なのかさえ、正常でない思考では理解出来ないほどだった。


だからあれからどれくらいが経ったのかもわからない。


食事なんて喉を通らないし、もしもこの子が目を覚ましたら、と思うと、眠ることさえ出来なかった。


タカや看護師さんは、しきりにあたしを心配し、せめて外の空気を吸ってほしい、なんて言う。


けれどあたしは、この場を離れることなんて出来なかった。


もしかしたら春樹が小さく指を動かすかもしれない。


そんな希望に縋りながらガラスに張り付き、眠ったままの弟をただ見つめていた。



「…春樹…」


もう何度その名を呼んだだろう。


峠は越え、辛うじて危険な状態からは脱したと医師は言うが、でも春樹は起きてはくれない。


だから容体が急変する可能性はあるものの、3ヶ月以上このままなら、植物状態ということになるらしい。


漫画のような奇跡なんて訪れてはくれない。


涙はいつの間にか涸れてしまい、それどころか意識さえも朦朧としていた。


きっと日数に換算すれば、二日程度だったと思う。


けれど最後には、タカによって力づくで病院から連れ出された。



「お前がそんなんだと、春樹が目を覚ましたって、逆に心配させることになるだろ?」


そんな風に言われたことは覚えている。


曰く、あたしの状態は普通じゃないらしい。


見せられた鏡に映った自分自身の顔は血色すらも失っていて、まるでミイラのようだった。


無理やりに食事を取らされたが、それさえ全て吐き、思い返せばあの頃のあたしは、生きることすら拒絶していたのだと思う。


タカが悲しそうだったことだけは覚えてるよ。