そんなあたしに気付くこともなく、



「タカってさぁ、普段はあんなんだけど、寝てる時だけは可愛いよなぁ。」


「あぁ、それわかる。」


「俺なんかもう、半分は父親目線だから。」


道明さんは冗談半分に言って、寝息を立てるタカを見る。


そこでふと、彼は何かを思い出したようにこちらを振り返り、



「そういやリサちゃん、知ってるか?」


その顔はまるで、告げ口をするいたずらっ子のようだけど。



「タカの本名だよ、知らないだろ。」


「……え?」


「コイツ絶対誰にも言いたがらねぇけどさ。」


そこで言葉を切り、道明さんはさらに声を潜めた。



「タカの名前は、“生”って書くんだよ。
生きるって書いて、タカって読むの。」


生きると書いて、タカ。


そう頭の中で反復させると、



「アイは“愛”って書くし、何かすげぇと思わねぇか?」


初めて知った、その事実。


どうしてだろう、何故だか胸の奥が熱くなる。


道明さんは缶ビール片手に小さな笑みを零し、



「まぁ、タカもリサちゃんも、しっかり生きろってことだよな。」


ただ、優しく呟いていた。


思い返せばそれはまるで、これから起こる何かを悟っていたような言葉だったね。