「ねぇ、木下くん。
今、春樹のこと恨んでる?」


聞いたって、当然だけど答えはない。


墓標を指でなぞりながら、肩が震える。



「ごめんね、でも…」


でも、もしも今もあの子を恨んでいるとしても、もう許してあげてほしい。


代わりに姉であるあたしを憎めば良いし、自分の道を見つけた春樹は、いい加減過去に囚われるべきではないのだ。


乃愛の中に慈しむべき命が宿り、この5年がどれほど無意味だったのかを思い知らされる。


だからお願いだよ、木下くん。



「何か言ってよ!」


けれど、静かな帳の中で、虚しさだけに包まれていく。


あたしは一体何をやっているのだろう。


自分の人生を決めかね、こんな場所まで来た挙句、懺悔するように死んだ人間に許しを請うているだなんて。


本当に、どうかしているのかもしれない。


次第に空は薄暗くなっていき、湿った重たい雲に覆われていく。


息を吐き、立ち上がった。


膝についた砂埃を払うと、ポケットに何かの感触――中を探ると出てきたのは、数日前に梢からもらったパイン飴だった。


だからそれだけをお墓に置き、



「ばいばい。」


あたしはそのままきびすを返す。


吐き出した吐息は僅かに震え、どうやったって消えない過去に責め立てられている気分になる。