「すぐそこに車置いてるから。」


と、言ったタカに促され、路地裏から出て少し歩き、駐車していた彼のそれに乗り込んだ。


すぐに車は走り出し、どこかに向かっているのだろうけど。



「今日はナイフとか持ってないの?」


嫌味混じりに笑って言った。


するとタカはうるせぇよ、と言い、煙草を歯で咥える。


改めて、冷静な頭で考えてみても、この状況はおかしなことだった。



「何笑ってんだよ?」


「だって面白いじゃない。
あたし、何でまたアンタの車に乗ってんだろうなぁ、って。」


きっとあたしは意志の乏しい人間なんだと思う。


黒と言われれば黒で良いし、白と言われれば白で良い、赤でも、青でも、緑でも。


そうやって誰かの求めに応じていることが、一番楽だから。



「でも、ちょっと嬉しいのかも。」


タカといると、物体としてではなく、自分の存在を確認できる気がする。


だからこの人に、ぐちゃぐちゃに、形なくバラバラに殺されたって良いんだ。



「わけわかんねぇよ。」


彼が肩をすくめたと同時に、車はアパートの駐車場へと入った。



「ここ、何?」


「俺んち。」


「…嘘でしょ?」


「こんな嘘ついてどうすんだよ。」