「服役中に心不全で死んじまった。
だから死後の世界ってやつが存在するなら、吉岡は今、アイと同じ場所にいるってことだ。」


悲しくて、痛い。


彼はそんな色を滲ませた顔を歪め、また記憶の糸を辿る。



「あの頃のタカには“姉ちゃん”の存在だけが救いで、唯一絶対的だったから。」


「………」


「だからアイが死んだ時、アイツは絶望の中でただ茫然としたっきりで、感情全部が削ぎ落とされたような顔してた。
泣き喚くこともなく、まして言葉さえ失ったように喋れなくなって、心臓だけが動いてる人形みてぇにさぁ。」


だからその時から、俺はタカのために生きよう、って。


息を吐きながら言う彼は、まるで涙を堪えるように宙を仰いだ。


それが、道明さんが今もタカの傍にいる理由。


ふたりが抱えたものの重さなんて計り知れなくて、だから心が裂けてしまいそうだ。



「タカ、無茶しなきゃ良いけどな。」


見つめた窓の外には、奇しくも満天の星空が広がっていた。



「もうこれ以上何も失いたくない、って前に言ってたっけなぁ。
アイツは自分の周りの大事なものを守るためには、何だってするようなヤツだから。」


膝を抱えれば、またあの恐怖が蘇る。


これはあたしの自業自得の結果なのにね。


だから今更になってやっと、梢の苦しみを本当の意味で理解した気がした。


シロは椅子の下で丸まり、時計の秒針が進む音だけが部屋に響く。



「って、泣くなっつってんのに。」


道明さんは涙だけを零すあたしを見てまた頭を抱えた。


だから唇を噛み締めたのに、肩が震え、体が熱を失っていることに初めて気がついた。


ねぇ、早く帰ってきてよ、タカ。