「俺すごくなかった?」


試合が終わり、体育館裏に座り込んでいたあたし達を見つけた彼の開口一番は、それだった。


大満足なのか、直人はにんまり顔だ。



「まぁ、俺が本気を出したらざっとこんなもんよ。」


「よく言うよ、ホントは試合中に足くじいたくせに。」


「うわっ、泣きっぱなしかと思ったら、ちゃんと見てんじゃん。」


「別にアンタなんか見てないわよ。」


相変わらず強がってばかりの梢に、あたしと乃愛は顔を見合せて肩をすくめた。


こりゃダメだ、と思った時、



「でも、約束は約束だし。」


梢は蚊の鳴くような声で言った。



「あたしなんかでホントに良いの?」


膝を抱えた彼女を見て、直人はひどく優しい瞳で笑っている。


こんなに可愛いことを言う梢なんて初めて見た。



「じゃあ、うちらこれ以上邪魔したくないし、帰ろーっと。」


乃愛が言うのであたしも便乗し、



「だよねぇ、空気ピンクとか居辛いっての。」


「ってことで、あとはご自由にー。」


ばいばーい、とふたりに手を振り、あたし達はその場を後にした。


すっかり西日の色に染まる世界の中で、妙な清々しさだけが胸に残る。


梢はきっともう大丈夫だ。