「先生はいつも、あたしにごめんね、って言うの。
あたしが勝手に好きになっただけだから、謝る必要なんてないのにね。」


「………」


「別にあたしは、あの人の家庭を壊したいだなんて思ってないよ。
あたしには、先生の存在だけが今は心の支えだから。」


乃愛は乃愛で、精一杯だったんだ。


所詮は不倫だと馬鹿にしていたあたしは、急に恥ずかしくなる。


梢を、乃愛を、勝手に見下していたのはあたしで、こんなことになってから、やっと大切なことに気付いた気がした。



「ごめん、乃愛。」


「ちょっと、リサ意味わかんないから。
何で突然謝るのよ。」


乃愛は少し悲しそうに笑っていたけれど、



「梢がこんな風になったのだって、きっとちゃんと止めなかったあたしの責任だよ。」


「リサ!」


制するように彼女は言うが、



「あたし、最低だよね。」


呟けば、途端にやるせなさに襲われる。



「リサが悪いんなら、あたしも同罪だよ。」


乃愛の声は震えていた。


悔しくて、やり場のない悲しみだけが狭い車内を包み込む。


今まで散々人の心をもてあそんでおいて、やっとそれがどれほど罪なことなのかに気がついた。


そんなあたし達が、今更人並に誰かに恋心なんか抱いても良いのだろうか。


タカを、好きでいても良いのだろうか。