タカは本当にあたしを自宅マンションの前まで送ってくれた。


時刻はすでに午前3時を過ぎていて、当然だけど辺りには人の姿なんかない。


彼はポケットからあたしの携帯を取り出し、



「これ、返すよ。」


やっぱり驚かされた。


おずおずとそれを受け取り、電源を入れると、メールが10通も届いている。


だから急に全てのことが現実的に思えてきて、それはまるで異世界から戻ってきたような感覚だった。



「ホントにあたしを逃がしても良いの?」


「あぁ、良いよ、別に。」


まぁ、警察に駆け込めば報復をされるのがオチだし、あたしだってそこまで馬鹿じゃないと、タカもきっとわかっているのだろう。



「じゃあね。」


そう言って、ドアに手を掛けようとした時だった。


瞬間に肩を引き寄せられ、驚いた拍子に唇を奪われていた。


煙草とお酒の混じる、タカの匂い。


その瞳があまりにも近すぎて、だから呼吸さえ忘れそうなほど、目が離せなくなる。



「手首んとこ、悪かったな。」


痛みすら消え去るほどに、鼓動が速い。


僅かに目を逸らした時、



「じゃあな、リサ。」


一瞬、タカが柔らかく笑ったように見えて、だからあたしは無言のままに車を降りた。


ドアを閉めると同時に、すぐにそれは走り出す。


冷たい風が頬を撫でて、まるで何もかもが夢であったかのようだ。