「ちょー、先生聞いてます?」


「聞いてる聞いてる」


む、絶対聞いてないよ。

先生は砂糖もミルクも入れない真っ黒なコーヒーを苦味を感じさせずにさらっと飲む。絶対人間じゃないよ、この人。

まずコーヒーが美味しいっていう人の味覚、絶対おかしい。



「せーんーせー」

「あぁもう。なんだようっせーな。」

「それが可愛い生徒に言う言葉ですか」

「どこに可愛い生徒がいるんだよ」

「しね!」


ばかー。先生なんて嫌いの反対だー。



ノンフレームのめがねの奥に潜む綺麗な瞳に見つめられたい。男らしい大きな手で、力強い腕で抱きしめられたい。低く安定感のある声で名前をささやかれたい。薄く色気のある唇でキスをされたい。


そんな衝動を抑えるのに必死な私を、先生はいつ好きになってくれるんだろう。


こんなに毎日通いつめても、先生は一度も私の名前を呼んでくれたことはないしこっちを見ようともしない。



「水瀬先生ー、暇だよー」

「だったら教室に戻りなさい」

「水瀬先生ー、さびしいよー」

「友達に慰めてもらいなさい」

「…、友達なんていないもん」



私には、先生だけなんです。