「ただいまー」




部屋の中から漂ってくる匂いに“今日はカレーか”なんて、のん気に考えながら靴を脱ぐ。




「お兄ちゃん遅いっ!」



「は?」




靴を脱いでリビングへ行くと、夕飯の準備をしていた星来が声を上げた。




「あたしが入ってから結構たつし!ずっと外にいたら寒いでしょ!」




……お前は俺の母親か。

思わず呆れて星来を見ていると、母さんが話しかけてきた。




「あんたたち、また一緒に帰ったの?」



「うん!」



「仲がいいこと」



「まあねーっ」




ニッと笑いながら言う星来をチラッと見て、俺は窮屈な制服を脱ぐため自分の部屋へと足を向けた。


ゆっくり階段を上りながら、小さくため息をつく。


仲がいい、か……


母さんが俺の気持ちを知らないからこそ言える言葉だ。


それに笑って返す星来を見ると、少し罪悪感にさいなまれる。


俺は兄妹として仲良くしたいわけじゃない。



できることなら星来を………




そこまで考えて、俺は煩悩を打ち消すようにゆっくり首を横に振った。