俺が静かに息を吐いた時、ふいに腕の重みがなくなる。




「?」



「着いたよ?」




上に向けていた視線を星来に向けると、星来は既に玄関を開けて不思議そうに俺を見ていた。




「、あぁ」




軽くなった腕に寂しさを感じながら息を吐くと、それは外の冷気にあてられて白に染まり、スッと消えていった。




「先、中入るよ?」



「おー、すぐ行く」



「ん、わかったー」




玄関から聞こえてくる星来に返事をして、俺はまた空を見た。


寒い夜空に浮かぶ星たちに、少し寂しさを覚えて俺は視線を表札へ向ける。


表札には俺と星来の共通の言葉が書かれている。




“夏川”




俺と星来の2人ともをこの名字にした神様が、俺は憎くてたまらない。


表札を睨みつけるように見て、俺は足を玄関へと向けた。



俺は星来の兄



家に入る前、いつも呪文のように唱えるこの言葉。


“玄関”という家族の門をくぐったら、星来に対しての気持ちは寸分たりとも表に出すことはタブー。


いつものことながら、気が滅入る………


俺は小さくため息をつき、家族の門へと入っていった。