そんな俺の意志が伝わったのか、その女の人は人懐っこい笑顔で自分を指差した。




「あたし、野球部マネージャー3年の樋口 月姫(ヒグチ ルナ)。よろしくねぇ」



「はあ、よろしく……」




いやに甘ったるい声をだす人だ。

俺の間の抜けた返事にも動じず、樋口先輩はにこにことしている。




「あ、夏川くんのことは~、星来に聞いてたの」



「星来に?」



「そっ。星来ってば、口を開けば“お兄ちゃんが”って言うのよ~」




おほほっと口元に右手を当ててにやにやしながら言う、樋口先輩。


………って、今のはかなり嬉しい情報じゃないか?




「え、あ、まじ、ですか?」




俺は拳を口元に持っていき、にやけそうなのを必死で抑える。




「まじもまじぃ。星来ってばすごく夏川くんが大好きみたいだから~」



「…………っ」




やばい。

嬉しすぎる……


にやけよりも何よりも、赤面してしまった顔を見られたくなくて、俺は左斜め下に視線を移した。

そんな俺を見ながら、七瀬先輩が意味ありげに口の端を上げていたことに気付かずに。