「先生…私…全てを思い出しました」

紗織は静かに話しだした。

「先生…私をここまで育ててくれて、本当に感謝してます。先生がいなかったら、どうなっていたか…」

「なんだよ、頭下げるなよ。父親として娘を育てるのは当然だろ」

「形上は親子です。でも本当の親子じゃない。先生は他人の子供を半ば強引に育てさせられたんですから」

「強引とは思ったことない。何でそう考える?」

「だって、施設に入れば済む事だったじゃないですか」

直次は言葉が出なかった。

「しずちゃん先生がやってくれたら、何も先生の手を煩わすこともなかった…」

「煩わすなんて…紗織と生活して嫌な思いなんて、一度も無いんだよ。紗織がいてくれて、家族愛を知らない俺は初めてそれを知ったんだから」

何でそこまで言うんだ?
実の親子じゃないのは、この治療が始まる前から知ってる事なのに。

紗織は下を向いたまま、顔を上げようとしなかった。

「紗織…どうしたんだよ」

紗織の肩に手をかけると、急にワーッと泣き出した。

「どうしたんだよ!?なぁ、紗織!」

紗織は両手で顔を覆い、首を振りながら泣いている。

「言ってくれよ…言わなきゃ分からないんだよ…?」

直次は諭すように優しく話しかけると、紗織はゆっくり両手を離した。

そして、何か怖いものでも見たような瞳で直次を見るなり、こう言った。



「先生…私…人を殺しました」

「え?何言って…」

「私…人を殺したの…あの男を…高谷を殺したのよッ!!」