見えない糸


「ただいま~」

玄関の方から声がした。
予定より早く紗織が帰宅したのだ。

「おかえり。どうした?早かったな」

「うん。友達に急用出来ちゃって...」

紗織は、リビングにいる、見たことのない女性を目にした。

「こんにちわ、紗織ちゃん」

「あ、いらっしゃいませ...」

ペコッと頭を下げた。

そして直次の側にきて

「どなた?」

と小声で訊いた。

「俺の知り合いの先生なんだ」

「ふーん...」そう言うと

「どうぞ、ごゆっくり」

そう二人に伝えて2階の自分の部屋へ行った。

「すみません...小谷先生の事も思い出せないままなんです」

「そうなんですか」

直次は、またタバコを吸おうとキッチンに向かうと、紗織が1階へ降りてきた。

「ちょっと飲み物が欲しくて...」

冷蔵庫を開け、オレンジジュースを取り出した。

その時、小谷が何かを言った。

直次は聞こえなかったが、紗織にはハッキリ聞こえたようだった。





なぜなら

紗織の大きく見開いた瞳は、小谷から離れることは無かったからだ。