紗織が治療を拒んでから今日で3週間になった。

あれから直次も、紗織の記憶の事について、全く話さなかった。

お互い、何もなかったように過ごしていた。

ある日、直次の職場の病院に、珍しい人が来てくれた。

施設の小谷先生だった。

少し仕事が残っていたので、一階のラウンジで待っててもらい、15分くらい後に直次が会いに行った。

「お待たせして申し訳ありません」

「いえ、私も突然だったので…お忙しいのにすみません」

夕方の病院は、外来診察が終わっていても、人が多い。

「佐々木先生、少し外出できますか?」

「じゃ、食事でもどうですか?って…私がお腹空いてるだけなんですが…」

直次は照れながら話した。

「これから昼食なんですか?」

「いつもは、もう少し早いんですが…」

病院近くの喫茶店で直次はエビピラフを頼み、小谷先生はコーヒーを注文した。

「今日は、どういった用件で病院へ?」

直次は早食いだ。
お腹が空いてるのもあって、注文したエビピラフを10分で平らげてしまった。

「佐々木先生、大丈夫ですか?そんなに急いで食べると、体悪くしますよ?」

小谷先生が言った後「あッ」と片手で口元を塞いだ。

「医者の不養生です」

直次が笑いながらコーヒーを飲んだ。

「小谷先生、お元気そうで何よりです」

「あ…私、あの施設を退職したんです。年も年でしたし、いろんな事がありすぎました」

いろんな事…それは紗織の事が大きく占めてるのかもしれない。

「あの…紗織ちゃんは元気ですか?」

最後の一口のコーヒーを飲みきってから、直次に聞いてきた。

「ええ、とても」

コーヒーのおかわりを二人分注文して言った。