号泣する紗織を、優しく抱きしめた。

「心配する事ない。紗織が自分から治療すると言うまで、オジサンは待つから。嫌がってるのに無理矢理する事もないから」

直次は、しばらく紗織が落ち着くまで、頭を撫でていた。

それはまるで、泣きじゃくる小さい子供をなだめるために、親がしてあげるようだった。


呼吸の乱れが治まった頃

「オジサン…あの話しは…もう少し待ってね…」

「大丈夫だ。紗織が良くなったら、治療を始めよう」

うんと頷いて、それぞれ自分の部屋に戻った。


直次は眠れなかった。

今までの患者には、必ず誰か身内の人がいたから、治療を拒まれるなんてなかった。

紗織が、あんなにイヤがる理由が、まさか

『離される』

と思っていたなんて…


そっと部屋を出て、リビングに行った。

何本もビールを飲んだけど酔えない。

こんなに夜が、重く長く感じる日は、なかった。