――もし、電話をかけたとして。

 あたしはシンさんと何を話していたのだろう?

 確か、シンさんはお礼がしたいって言ってくれていた。

 それがどういったことを指すのか分からないけど、多分、プライベートで1度会うといったことだと思う。

 電話越しに誘われたら……あたしは、シンさんのお誘いを受けるの?

「――」

 深いため息をつきながら、何度も考える。

 けれど……答えが出ない。

 強く揺れる心の中で、断ろうとする気持ちと、それをねじ伏せようとする気持ちがぶつかり、頭を混乱させる。

 シンさんは――メイドカフェのお客さん。

 でも……他のお客さんとは違った気持ちを持っているのも正直な話。

 だから、って……お誘いを受けるのも……

 けれど――

 メイドとお客さん、っていう枠組みじゃない――あたしと、シンさん。

 そして、いつもとは違ったシンさんを見られるかもしれないし……見てみたいと思う気持ちもあるけれど。

「……」

 思うことは思う――だけど、その夜のあたしは、ついにシンさんに連絡することが出来なかった。