「――不要なら、ゴミ箱に捨ててもいいし、燃やしてくれてもいいんだ。今はぼくの気持ちをきみに示したいだけだし、ただの押し付けだってことも分かっているよ」

 そう言いながら、あたしが差し出した手をそっと両手で押し戻してくれるシンさん。

「……」

 紙片を握り締めた手を包んでくれるシンさんの手の温かさに、思わず自然と自分の手を戻してしまうあたし。

「でも、ぼくはこのお礼をしたいと思っている」

 微笑んだまま、じっとあたしを見つめてくれるシンさんの目。

「――」

 不思議な魅力が詰まったその目から視線を逸らせなくて、あたしもじっとシンさんを見つめていた。

 走ってきたときよりも胸の鼓動が早くなっている気がする。

「――待ってるよ」

 その一言がまるで魔法の言葉のように聞こえたのは……あたしの気のせいじゃないと思う。

「届けてくれて本当にありがとう。――じゃあ、そろそろ行くね」

 にこっといつもの温かい笑顔を残し、シンさんはあたしに手を振ってくれながら青の横断歩道を歩いて行く。

「……」

 胸の早鐘を抱きながら――あたしは、惚けたようにその後姿をしばらく眺めていた。