「で、でも……」

 手の中の紙片にあるのは、シンさんの携帯番号……

 これって、その――プライベートで……ってことよね?

 それに……番号をもらうだなんてこと――

「あのっ……こ、これは受け取れません……っ」

 お店のお約束に反する。

 だから、このときのあたしは震えそうになる心を懸命に保たせ、シンさんにその紙片を返そうとした。

「人として、当然のことをしただけですから――」

 本音を言うと、すごく心が揺れて仕方ない。

 この番号に連絡したら――

 あたしは、また新しいシンさんの魅力を知ることが出来るのかもしれない。

 どんな声で電話で話をしてくれるんだろう?

 耳元で、いつもみたいに温かで優しい笑顔のような声が聞こえるとは思うけれど。

 それが――あたしにだけ、話してくれるってことよね……

 知りたい――けど。

 それはルール違反だし、お店に知られるとシンさんに迷惑がいってしまう。

 強く揺れながらも、このときのあたしはお店のことを考え、この紙片を「受け取れない」という選択肢を選ぶしか出来なかった。