「こんにちは、おじさん。今日も魚のアラ下さい」

「いらっしゃい、さつきちゃん! 今日は鯛のアラが出たから、これも持っていっていいよ!」

「ありがとう!」

 ――独りの生活を続けて、もう少しで1年。

 あたしはなんとか日々を送れている。

 孤独になったうえ、残忍だった祖父の話を知ってくれた近所の商店街の人たちや町内会の人たちが、懸命に生活するあたしに色々とよくしてくれた。

 昔ながらの商店街のお店では、魚のアラや売り物にならなくなった野菜なんかを分けてもらえるし、色んなものをあたしのためにごく少量から売ってくれたりする。

 いろんな人たちの「優しさ」に支えられて、あたしは生かしてもらえていた。

 昔から慣れ親しんでいて、まだまだ古き良き「人情」というものが残るこの町内が、今はあたしの両親代わりといっても過言じゃない。

 だから、時間があるときには出来るだけあたしは町内を掃除したりするように「恩返し」を心がけていた。

「今日もバイト? 頑張ってねぇ」

 あたしが町を歩けば、見知った人たちがいつも声をかけてくれる――それが、今のあたしにはとても嬉しく、満たされていて。

「ありがとう、もうすぐしたら行ってきます」

 あたしは首のマフラーを巻き直し、にこやかな足取りで声をかけてくれた人たちに頭を下げながら、バイトに行く準備をするため、活気の良い商店街を抜けて足早にアパートへと戻っていった。