初恋は前途多難! ~朗らか社会人とメイド女子高生 【1:出会い編】

「さっき、少し予定が狂ったからね、ここに来られないかと思ったんだ」

 何事もないように落ち着き払った様子で席に着いたシンさんは、にっこりといつものようにあたしを見上げて微笑み、そう言ってくれる。

「お疲れ様です。――そして、ありがとうございます」

 にっこり笑って頭を下げた。

 意識しちゃいけない、って思えば思うほど――あたしの顔が赤くなりそうになって、慌てて頭を下げて顔を隠す。

「すぐにおしぼりをお持ちいたしますね」

「うん」

 恥ずかしさからか、逃げるようにして慌ててカウンターへ入る。

「さくらちゃん、接客交代するよ?」

 あたしの休憩時間を心配して、別のメイドの子が声をかけてくれたけど、

「ううん、大丈夫。あのお客さん、あたしじゃないとダメなの」

 笑って首を振ると、交代の申し出をやんわりと断った。

 ……別に、あたしじゃないとダメ――なんてはずはない。

 きっと、あたしの小さな独占欲なんだと思う。

 他の子にシンさんを接客してほしくない……かも。

 ――特別に感じるその感情の名前を、無意識に閉じ込めながら。

 きっと、その頃のあたしは「メイドカフェという少し特殊な仕事だから」っていう建前で、その感情に気付かないふりをしていたんだと思う。