初恋は前途多難! ~朗らか社会人とメイド女子高生 【1:出会い編】

「――こんにちは」

 あたしが挨拶すると、シンさんもにっこり笑って挨拶を返してくれる。

 ネクタイは無いけど、上品そうなジャケットを羽織った姿のシンさん。

 薄いモスグリーンのジャケットが、どこか春っぽさを感じる。

「ルール違反は分かってるけど……昨日、さくらちゃんに言いそびれた言葉があるから」

 だからまた待っちゃった、って、気恥ずかしそうに髪に手をやりながら、シンさんは笑う。

「あ、いえ……」

 どう言っていいか分からないあたしは、曖昧な言葉で頷き、視線を伏せる。

 ……昨日のシンさんの悲しそうな顔を思い出したら、顔をあわせられない気持ちになってしまう。

「聞いてくれるかな?」

 ここで「ダメ」って答えるのも、待っていてくれていたシンさんに悪い。

 たとえルール違反だって分かっていても。

「……」

 視線を伏せたまま、こくんと頷く。

「ありがとう」

 あたしの耳に届くシンさんの声は、少し嬉しそうなそれ。

「……」

 昨日伝えそびれたっていうシンさんの言葉を、あたしはじっと待った。