「分からないのかよ――」

 複雑そうな表情を浮かべるあたしを見て、小さく笑ったタクミは、

「昔っからマヌケでドジだったお前を、懸命にフォローをしてきた身になれっつってんだよ」

 あたしの頭に乗せたその手で、くしゃくしゃと髪をかき乱す。

「やっ、タクミっ!」

 必死にその手を振り解き、ゴムを外して乱れた髪をもう一度まとめ直した。

「んもうっ! ひどいよ、タクミ」

「今回はそれだけで許してやるんだから、ありがたく思えよ」

 にやりと笑ってから、タクミはもう1度軽くあたしの頭をぽんぽんとすると、

「さつきの店に向かう途中にお袋からメールがあって、晩飯にお前を誘って来い、って書いてたんだ。今日は水炊きをするんだってさ。来るだろ? っていうか来いよ」

「うん。おばさんがいいんだったら、甘えさせてもらおっかな」

「よし。――じゃ、帰ろうぜ」

「うんっ!」

 ――もし、このとき。

 ううん、このときって限定しなくてもいいんだけど……とにかく、この後の「あの出来事」が起こるまでの間に。

 タクミの本当の気持ちを聞いていたら、あたしとタクミの関係はどんな風になっていたんだろう――って、最近、なんとなく思うようになった。

 もし聞いていたとしても、やっぱりタクミはあたしの中では1番の幼馴染であることに変わりない、って……思ったのかな?