初恋は前途多難！ ～朗らか社会人とメイド女子高生 【１：出会い編】

　メイドカフェっていうちょっと非日常を売りにするお店だから、ここには変わったルールが色々とある。

　普通のカフェでは多分無いんだろうな、って言うようなルールが多い。

　姉妹店の執事喫茶で働いてる子……あたしで言えば幼馴染のタクミと一緒にいる現場を見られたらダメとか、お客さんと恋愛は禁止だとか。

　その中のひとつに、お客さんに本名を教えるのは禁止、っていうのがある。

　さっきの「お互いのプライベートを詮索しない」っていうのも含めて、ストーカーや付きまといなどを未然に防ぐため、とか色々と店長から説明してもらったっけ。

　実際、お店で働くようになってから、このお店に来るお客さんの危ない視線を見て……そのルールの意味もなんとなく分かったけど。

「あ、ごめんね。困らせるつもりじゃなかったんだ」

　あたしの言動で察してくれたらしいシンさんは、慌てたように両手を振って謝ってくれた。

「そんな悲しそうな顔をしないで？　今のはぼくが悪いんだ。ごめんね？」

「すみません……ですが、ここにお帰りいただいたときは、ご主人様のためにまたお仕えさせていただきます」

　メイドじゃなかったら、少しくらいは――なんて言葉が、喉奥から溢れそうになった。

「うん、そうだね。じゃあ……さくらちゃん、ありがとう。また帰ってくるから、そのときはよろしくね」

　最後は、またにっこりと温かい微笑みを置き、シンさんは真治さんと一緒にお店を出て街の中へと消えた。

　怒らせてないよね……大丈夫かな？