「あぁ、いや……きみの他にもメイドさんがいるし、名前があるんだったら、きみの事をちゃんと呼びたいなって思ってね」
名前を聞かれることは、顔馴染みじゃないお客さんからしょっちゅうあるけど……こんな風にちゃんと理由まで言ってくれる人って初めて。
やっぱり、初めてのタイプのお客さんだなぁ。
「あ、そうですね。じゃあ、改めまして――私は“さくら”と申します。これから覚えてくださいね、ご主人様」
レジ越しだけど、あたしはにっこりと笑って軽く頭を下げ、自己紹介。
「ふぅん――……本名?」
きっと、何の気なしに聞いてくれたんだろうと思う、その言葉。
「えと、その……こちらでは、私は“さくら”なのです。それ以上のことは、あの……お店のお約束に反することに……」
懸命に考えながらも、あたしはどう言っていいのか分からず、ちょっと困った表情になりつつも頭を下げてシンさんに正直なことを告げる。
プライベートなことを話すのはダメ、ってことを。
……一瞬、シンさんになら良いのかな? って思ったけど、でも――ルールはルール、だし……
「その……申し訳ありません、ご主人様――……」
シンさんを傷つけたくない。
温かで朗らかな微笑みを、あたしの言葉で曇らせたくなくて。
その気持ちが、あたしに心から頭を下げさせた。
名前を聞かれることは、顔馴染みじゃないお客さんからしょっちゅうあるけど……こんな風にちゃんと理由まで言ってくれる人って初めて。
やっぱり、初めてのタイプのお客さんだなぁ。
「あ、そうですね。じゃあ、改めまして――私は“さくら”と申します。これから覚えてくださいね、ご主人様」
レジ越しだけど、あたしはにっこりと笑って軽く頭を下げ、自己紹介。
「ふぅん――……本名?」
きっと、何の気なしに聞いてくれたんだろうと思う、その言葉。
「えと、その……こちらでは、私は“さくら”なのです。それ以上のことは、あの……お店のお約束に反することに……」
懸命に考えながらも、あたしはどう言っていいのか分からず、ちょっと困った表情になりつつも頭を下げてシンさんに正直なことを告げる。
プライベートなことを話すのはダメ、ってことを。
……一瞬、シンさんになら良いのかな? って思ったけど、でも――ルールはルール、だし……
「その……申し訳ありません、ご主人様――……」
シンさんを傷つけたくない。
温かで朗らかな微笑みを、あたしの言葉で曇らせたくなくて。
その気持ちが、あたしに心から頭を下げさせた。

