「……」

 変な――っていうと語弊があるけど。

 今までに無いタイプの人だった。

 出て行ったあと、レジからそのドアを少し眺める。

 父さんみたいな優しい笑顔。

 温かだったなぁ。

 バイトと学校で忙殺されていて、こんな気持ちになるのって久しぶりな気がする。

「……」

 ほんの少し忘れていたこの気持ちを思い出させてくれたあの人。

 志地雄シン、さん――だったっけ。

 本当にまた来るのかな?

 また癒されたいかも――なんて。

「……ダメね、今はメイドなのに」

 癒すはずの仕事が逆に癒されるなんて、おかしいって思われちゃうかも。

 でも――あの笑顔はちょっといい。

「――さ、いつまでもぼーっとしないで、仕事しなきゃ」

 シンさんのことがほんの少し気になりつつも、あたしは気持ちを入れ替えて自分に言い聞かせるようにそう呟き、そっとレジから離れ、仕事に戻っていく。

 ――これが、あたしとシンさんの、思い出深くてちょっとヘンテコな出会いだった。