気にならなかった、っていうのは、やっぱり嘘。

 どうして? って聞かれると「なんとなく」としか答えられないんだけれど。

 このお店に来る人たちとは明らかに違う雰囲気だったから。

 ネクタイをしていなかったけれど、店内での上品な様子を見ていると、明らかにどこかいい職場に勤めている雰囲気だったし、それに、あとからその場にいたメイドがみんな「2人ともイケメンだった」って言ってた。

 イケメン……そう言われればそうなのかもしれないけれど。

 でも、なんだろう……それ以外で何か「感じる」ことが、あたしにはあったのかもしれない。

 初めて会ったときの、なんていうのかな……うん、そう。

 初めてなのに、どこか懐かしい――気持ち、っていうのかな?

 あの子供っぽい人、あたしは覚えているような気がした。

 ……なんて、後付けならなんとでも言えるのかな?

「謝る必要なんてないよ」

 頭を下げたあたしに、子供っぽい人は「顔を上げて」と促してくれる。

「――うん、きみはそうやって笑顔でいてくれる方がいい」

 そろりと顔を上げたあたしに、子供っぽい人はにっこりと朗らかに笑って、そう言ってくれた。

「まぁ……ぼくもきみを見ていたからね。あ、きみには何もついていないよ?」

 ほんの少し目元を赤くさせながら、そんなことを付け加えて。