「お店に入った瞬間は、ただ姿が見られればそれでいいと思っていたんだ。でも、その気持ちはすぐに壊れちゃったよ。――話をしたい、ぼくをきみの中に印象付けたい、って……そのときほど、人間の貪欲さを実感したことはないかもね」

 また信号が赤になって車が停まると、シンさんはふっと失笑するように思い出し笑いをしながら、

「自分でこんなことを言うのはおかしいけれど――ぼく、運を引き寄せるのは得意だって自分で思っているんだ。だから、お店には他の子もいるけれど、初めてお店に入ったときからさつきちゃんに接客してもらおうって強気で思っていたんだよ? そうしたら、さつきちゃんに接客してもらえる運を引き寄せたんだ」

 妙な自信過剰だけどね、と、その当時の気持ちを思い出したのか、おかしそうに笑うシンさん。

「そうだったんですか……」

「うん。――そのときのぼくの運に感謝。こうしてさつきちゃんとプライベートで会えるまでに発展させてくれたんだからね。やっぱり、最初が肝心だったと思うんだ」

 にっこりと嬉しそうに笑いかけてくれるシンさんの笑顔を見て――あたしは、思わず頬を染めてしまう。

「そう、ですね――」

 なんとかそれだけを答えると、逃げるように俯く。

 それって、その……

 そういうことを言うってことは……

 シンさんの言葉を頭の中で何度も考え、あたしの思考回路はオーバーヒート寸前だった。