「わぁっ、ほんとにメイドさんだぁ」

 低く響くようでいて、甘くて明るい印象を受ける心地よい声。

 嬉しそうに声を上げたその人は、にこにことあたしを興味深そうに上から下まで眺めていた。

「お帰りなさいませ、ご主人様。お席までご案内いたします」

 もう1度あたしはそう言って頭を下げ、顔を見上げてそっと手で店内を促す。

「んー、メイドさんだねぇ」

 興味深そうにあたしを眺めるその様子が、ちょっと終わりそうにもない。

「……出入り口ではご迷惑になりますので、ひとまず案内されましょうか」

 あたしのことを嬉しそうに眺めている人と一緒に入ってきた人――多分お友達なんだろうけど、その人が耳元でさり気なく一言囁いた。

 こっちの人の声は、あたしのことを興味深そうに眺める人より少し高めだけど、すごく落ち着いた印象を受ける大人っぽい声質。

「あ……うん、そうだね。じゃあ、案内を頼もうかな」

 囁かれた言葉に気がつき、頷いたその人は、ようやくあたしをしげしげと眺めることをやめ、あたしの顔を見て案内を待ってくれる。

「ご案内いたします」

 にこやかにいつも通りにあたしは空いている席へ2人を案内。

 メイドに興奮して感激する人は少なくない。

 そもそも、こういったお店は非現実空間を売りにしているわけだし。

 だからこのときもあたしは別段気にすることなく、いつも通りの振る舞いをしていた。