このお店のメイドとしての仕事は、普通の給仕や注文を聞く以外にも色々とある。

 軽食は奥のキッチンで専用のスタッフさんが作ってくれるけど、パフェや飲み物なんかは、あたしたちがキッチンの近くのカウンターで作って持って行くのが決まり。

 お店でバイトするようになってから、あたしはサイフォンでのコーヒーの淹れ方やティーメーカーでの紅茶の淹れ方なんかを知った。

「さぁ、今日も頑張らなきゃ」

 口の中で独り言のように呟き、いつものようにあたしは笑顔で銀のトレイを持つ。

 今日も変わりない1日。

 生きるために働いて、独りの寂しさを紛らわせるんだ、って。

 そう思っていた。

 チリリーン――……

 来客を告げるお店の入口のベルが鳴り、あの人たちが入ってくるまでは。

「お帰りなさいませ、ご主人様」

 店内にお客さんが入ってきて、あたしはすかさず笑顔で入口まで向かうと、にこやかに声をかけて頭を下げる。

 このとき、もしあたしがお出迎えに行かなかったら。

 この出会いはなかったのかな?

 いつもと変わらない日が少しずつ変わる、あの出会いを。