「こんなとこ見られたら、タクミのファンから刺されそう」

 思わず愚痴のようにぼそりと本音をこぼすと、

「眼鏡をかければ誰も俺だって気がつかないからな」

 笑ってタクミは自分の眼鏡に触れてそういう。

 黒縁のセル眼鏡だからか、確かに印象はかなり変わる。

 格好いい、に理知的が少しプラスされる感じかな。

「じゃ、帰ろうぜ」

「うん」

 あたしとタクミは、ただの幼馴染で、別に付き合ってるとかそういう関係じゃない。

 うーん……強いて言うなら、兄弟みたいな……そんな関係、だと思う。

 あまりにも昔から近くにいたから、恋愛という感情が無かった。

 それは、きっとタクミだって同じはず。

 お互いに、感情を抜きにしてごく自然な感じで付き合えている。

「お袋からさっきメールが入って、今日はカレーだからお前も誘って来いってさ」

「わぁっ! あたし、おばさんのカレー大好きなの」

「そう言うだろうと思って、さつきも行くよってさっき勝手に返事しといた。――早く帰ろうぜ」

「うんっ!」

 本当の兄弟のように、あたしたちは仲良く色んな話をしながら、いつものように駅へ向かう道に歩き出した。