「……」

 ある程度髪が乾いたのを確認し、ドライヤーのスイッチをオフにする。

 コードを巻いて、いつも置いてある引き出しの中へとしまう。

 ご飯の用意をしなきゃいけない、って分かっているけど。

 今夜のあたしは、シンさんのメモに視線を縫い合わせたまま、動けない。

 ――10日、お店に来てくれていない……

 シンさんの都合もあるって事はよく分かっているけれど。

 でも、ぱったりっていうのが――気になる。

 あたしに番号を教えてくれたから?

 そして、その番号にあたしが連絡しないから?

 ……電話したら、また会える……?

 そんなことを思っていたら、無意識に手が伸び、右手に携帯、そして左手にあのメモを持っていた。

「……」

 とくとくとく、と、心臓が早鐘を打つ。

 番号を押す勇気が出ない。

 自分は何を怖がっているのだろう?

 シンさんが電話に出なかったときのこと?

 それとも――……プライベートで会って、シンさんと「合わない」と感じるかもしれないということの恐怖?

 そんなこと……本当に会わないと分からない、って……頭では分かっているのに。

「……」

 色んなことを考えて、震える指は中々力を込めることが出来なかったけれど。

 ふわり、と記憶の中に出てきたシンさんの「優しい笑顔」が過ぎった瞬間、あたしの中の何かが突き動かされたかのように。

 メモに書かれていたシンさんの携帯の番号を入力し、最後に通話ボタンを押す。

 長い迷いの末――とうとう、あたしはシンさんの携帯に電話をした。