仕事が終われば、独りぼっちだけど。

 メイドをやっている間は、楽しさで忘れていられる。

 独りの寂しさがこのときだけは感じない。

「お疲れ様でした。お先、失礼いたします」

「――さつき」

 店を出たあたしに、聞きなれた小さな呼び声。

 店の入口のある騒がしい大通りとは違う、少し静かな裏路地の勝手口の近くの壁に背を預けながら、はっきりとした少し低いテナーの声で店から出てきたあたしを呼んでくれたのは、幼馴染の代々木タクミ。

 幼稚園から一緒で、兄弟のように仲良く大きくなってきた。

「もう――またこんなところで待ってて……タクミのお店、うちより厳しいんでしょ? 見つかったら今度は注意だけじゃすまないよ?」

「別にいいさ。クビになったら今度はさつきの店の執事として働くよ」

「ばか。それも一緒よ」

 タクミは、この店の近くにあるあたしのお店の姉妹店、執事喫茶「Bitter」で執事のバイト。

 幼馴染のあたしが言うのも変だけど……セミロングの髪に少し甘いマスク、そして笑顔が健康的だからか、お店の人気は高いし、勉強も出来る方だから、学校でもタクミ狙いの子は少なくないはず。

 独りになったあたしを、タクミも幼馴染のよしみでよく気にかけてくれたりしている。

 でも、あたしたちのお店が姉妹店だからか「お互いの店員同士が一緒にいることは禁止」という、どちらのお店のファンにも気を使うようなルールがあって、破れば最悪クビになるかもしれないけれど、タクミはそんなことも気にせず、シフトが合えばあたしをいつも迎えに来てくれた。