おかん

抗がん剤治療を始めて少しして
おかんはニット帽を被り始めた。

その意味はおれでも分かる。

女の人が髪が抜けるのは
どれほど酷な事だろう。

最初はおれが仕事から帰ると
おかんは病院から自宅に帰っていた。

いつもと違う様子で。
ニット帽を被って。

おれはふと最初にそこに
目線がいった。

おれはすぐにそこから
目線をそらした。

何か違う話をしないと。

だが言葉がでてこない。

『ご飯あるき食べり。
インフルエンザはやっちょうみたいやき
あんた手洗いよ。』

こんな時にもおれは
おかんに救われる。

無言で洗面所に行き
手を洗う。

作ってくれていたご飯を
部屋に持って行く。

だけどご飯が入らない。


おれは何ができる?
おれはどうしたらいい?







一番辛いのはおかんなのに
おれは何もしてやれない。