それは、私が初めて見るものだった。

私は最初、袴を履いたその人を桜の精だと思った。

馬鹿げているかもしれないけど、私が見たことのある男性は、父や祖父といった身内の歳のいった人だけだったから。

若い男の人がどういうものなのか、わからなかったから。

あんまりにも美しいその人を、人間とは思えなかったのだ。


その淡い青の袖には桜が舞い落ち、印象的な赤い髪紐で束ねられた長い黒髪は春風に舞う。

青空を見上げる切れ長の瞳は涼やかで、でもその奥には焔のような強さが宿っていて。

その傍を舞っている蝶が、とても羨ましかった。


私が見とれていると。


――ザアアァ……


突如吹き荒れた風に散らされた桜の花びらが、桜の精を隠してしまう。


――まって――

――まだ、見ていたい――



「誰かと思ったら…桜の精か?」