春もうららかな日。

私は、こっそり大名屋敷を抜け出していた。

この前見つけた、とても綺麗な桜を見に行こうと思ったから。


小袿の裾が地面に着かないよう、持ち上げながら走る。

正装用の上質な生地だけど、あまり好かない色だった。



やっとの思いでたどり着くと、案の定、桜は一番美しい時期を迎えていた。

ほう、と息をつき、もう少し近くに行こうと歩を進める。

けれど、桜の下の影に気づき、思わず足を止めた。

「だれ…?」

誰に言うでもなく呟く。

私はその影をよく見ようと、恐る恐る歩み寄った。



「………!」


その人がはっきり見えた瞬間。

私の視界に桜は入らなくなった。