景くんは、何か決意したようにあたしの目を見た。

「…佑先輩」

気づけば、部室はすぐそこ。

あたしは足を止める。

こっちの異変に気づいた二人が、足早に近づいてきた。

「どうしたんだよ?」

景くんは、真剣な声で二人の名を呼ぶ。

「良太先輩。拓真先輩」

そのただならぬ様子に二人は顔を見合わせる。

「…な、なんだよ?」

良太が戸惑いがちに尋ねると、景くんは胸に手を当てたまま目を閉じた。


再び開いたその瞳は――今までの霞のようなそれとは違う、びっくりするくらい強い目。

…きっと、こっちが本当の景くんなんだろう。


景くんは小さく息を吸ったあと、凛とした調子で言った。

「聞いて下さい。――私の過去を。弓鶴様との出会いから、私が最期を迎えるその日までの、私の記憶を」



――あたし達は、大きく頷いた。