景くんは、俯いたまま何も言わない。
「かつて貴様は天災の罪を着せられた。妖怪と人間の契りによって生を受けたことで、呪わしい存在として殺されかけた。貴様を養っていた義父母は貴様を差し出そうとした。斎藤弓鶴は人間に殺された。人はそうやって正義を振りかざして罪を犯す」
田沢の視線が良太に向く。
「この者はたった今、景姫という存在を否定した。すなわち貴様を否定したということに等しい。貴様は宮野景ではなく、宮野景の器に入った大名の姫君なのだから」
良太の肩がビクッと震える。
「貴様はそれでも、人を信じるか、景」
……景くんが、ゆっくりと顔を上げた。
その眼差しは、良太に向けられる。
でも、それは。
ひどく優しいものだった。
……ああ。
景くんはあたし達の後輩なんかじゃないんだ。
つらい思いを数え切れない程味わって、一生を左右する選択をいくつもして、ひとりの男の人を心の底から思って……。
恋のひとつもしたことのないあたしより、自分で歩む道を決めたことのないあたしより、
ずっと、先輩なんだ。
