ちょうど、見知らぬ男の人の横をかけて行く景くんの背中が見えた。
「景くん!?」
マナ先輩が素っ頓狂な声を上げるけど、景くんはあっという間に走り去ってしまった。
「あっ、まって景くん…!」
後を追い掛けるけど、不意に誰かに腕を掴まれる。
内心イラッとしながら横を向くと――。
あたしを…正確にはあたしの頭を見つめる男性がいた。
綺麗な黒髪は邪魔にならないように結われ、鋭い夜色の瞳は刃物の様に妖しく美しい。
肌は悲しくなるくらい綺麗で、形の良い薄い唇が色っぽい。
…ああ、美人とはこういう人のことを言うんだなって思った。
その辺の女優より格段に艶がある。
だけどあたしの二の腕を掴む手は、大きくて力強かった。
突然現れた美男子にあたしがぼーっとしていると、彼が呟いた。
「…その簪…確か…」
だけど、その先は続かなかった。
「…離して頂けますか」
拓真が低く唸る。
その横では、良太が歯をむき出して斎藤さんを睨みつけていた。
鬼気迫った二人を見た斎藤さんは、一切怯むことなく堂に入った低音で静かに答える。
「…悪かった」
そして、あたしをパッと離した。
