避けようと思えば避けられたのに。
逃げようと思えば逃げられたのに。
それなのに。
私は動けなかった。
「花…」
耳に唇が触れてしまうんじゃないかって。
それくらい近くで囁かれた甘くて低い黒沢の声。
顔の横についていた腕はそのままに。
空いている方の手は梳くように髪を撫でる。
やっぱりどうかしちゃってる。
黒沢の声が、仕草が。
こんなにも甘く感じるなんて。
まるで黒沢の一挙一動に反応するかのように。
ドキドキがドクンドクンに変わり。
身体中を巡っている血の流れを感じる。
「…ッ…!!」
髪を梳いていた指が首筋を撫でた。
そして。
黒沢は口元を緩ませると。
ククッと小さく笑いを零した。

