大学三年の春。
今年の桜は早く散っていった。
突風が吹くたび、祈った。


散らないで・・・


翔と一緒に桜を見たかった。

舞い散る桜の中は、外界とは違う一つの空間になる。

その、ピンクの世界に、いつも私は一人でいた。



すぐに夏が来るだろう。

私は赤いノートを取り出した。
手帳サイズで、いつでも持ち歩いている携帯よりも大切なもの。

ペラペラめくって眺めた。

シャーペンで書かれた文字が詰まっている。
丁寧に書かれた文章、走り書きの言葉、消してしまったメッセージ。