狭い室内。
薄暗い照明。
音楽は流さない。

翔がメロディーを奏でるからだ。

アップテンポのギターに乗せて深みのある声が何かを口ずさんでいる。
低い、色っぽい声。
それでも翔は、私の歌声に勝るものはないと言うの。

靴を脱いで、ソファの上で両足を抱く。

何度かリズムを変えてギターを弾いてくれたけれど、私は最初のアップテンポが気に入ったみたい。

明るいメロディーにとびっきり切ない歌詞を乗せたいと感じたのだ。

私はこのメロディーにどんな歌詞をのせようか。浮かぶ情景を考えて瞳を閉じる。

ごろん。

ソファに転がる。翔の歌声が子守歌に聞こえてきた。
心地よい空気。

ただ、こんな状況でも何も起こったことのない私たち。
少し悲しくなった。