桜、月夜、愛おもい。




「行けばいいじゃない。会いに」


「!」



かけられた声に驚いて振り向くと、いつの間に入っていたのか、咲菜が壁にもたれて立っていた。


表情は冷めたものだけど、目の色は至極優しい。



「あ…会いに行くって…台風は?」

「あんたがボケッとしてる間にいっちゃったわよ。テレビ見てなかったの?」


咲菜が、親指で外を指して呆れたと言う風に笑う。


外を見ると、咲菜の言う通り、風の音もしないし雨も降っていなかった。



「…いつの間に……」


私は呟いた。


ていうか、ずっと気付かなかった私は、どれだけ放心してたんだろう?

よく料理が無事に出来たな…。



自分の器用さと鈍感さに、驚きと呆れとで「ほぉ~っ」と溜め息をつく。